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漢方薬のすすめ

 漢方薬を飲んだけど効かなかった、といわれることがあります。聞いてみると、ドクダミやゲンノショウコを煎じて飲んでいたり、漢方製材を漢方を詳しく知らない人から勧められていたことが多いです。漢方薬は健康食品とも民間薬とも異なりますし、また患者さんにうまく合わせるには難しく熟練が必要です。  初めての診察のときに患者さんの自覚症状の他に、脈・舌・お腹・皮膚の状態などを詳しく診ます。ご自分では健康だと思っている人でも病的な反応が出ているほうが多く、むしろどこも悪くない人は稀です。ですから病気の予防にも漢方薬は効果的です。免疫力が高まりますので風邪を引きにくくなりますし、ガンの予防にもなります。

 漢方の診察ですが、ふれないほどの細く小さな脈もあればその反対もあります。舌はむくんで牛のように大きくなっているのもあれば、血行不良で蛇の舌のように細いものもあります。また色もさまざまですし、乾いていることや亀裂ができていることもあります。お腹は堅い・力がない・しこりがある・押えると痛い・ガスがたまっている・お腹に動悸が打っているなどの病的な反応があることも多いのですが、ほとんどの患者さんは自覚がありません。皮膚は乾いている・湿っている・色の変化・顔色なども重要です。

 この様々な病症と自覚症状、また体力なども考慮して合わすのが漢方薬です。病気が治るということは、自覚症状がなくなることだけでなく、脈・舌・お腹・皮膚の状態が改善することです。治療が順調にいく場合もあれば、そうでないこともあります。例えば温める薬を使っていても患者さんが冷蔵庫のような環境にいれば薬は効きません。うまくいかないときには患者さんとの二人三脚で、原因はどこにあるかを一緒に考えます。これが実際の治療で、こちら側が薬をだして、それを飲んだら治る、といった単純なものでもありません。

  次に漢方の考え方を説明します。気(ガス、その他)・血(血液)水(体液)が滞りなく体内を循環すれば健康である、ということです。血行不良が病気の原因となるのは誰もがご存じでしょうが、腹部にガスが滞ることによっておこる、肩凝り・腰痛・動悸・胸痛などは余り知られていません。ガスはストレスによってもよく溜まります。

 体の全体を考え、治療するので、患者さんの悩んでいるところだけでなく、他のところも同時によくなり体が元気になってきます。

  現代医学が細分化で局所治療が主になっていますが、漢方医学は全体治療ですので、同時に行っても問題はなく、むしろ併用が健康維持に役立ちます。これからは予防医学としてさらに脚光をあびて注目される医学です。


 Aさんは子宮内膜症で卵巣のチョコレート膿腫と医師に診断されて相談に見えました。自覚症状は生理痛がひどく、下腹と腰が鈍く痛み、始まってから2、3日は鎮痛剤を服まないと我慢できないくらいです。顔色を診ると目の下にクマがあり、お腹を診ると臍の下に半円状にシコリと圧痛があります。この方は漢方薬を服んでから一ヵ月後に主治医に診断を受けると、なんと卵巣膿腫が確認できませんでした。生理痛も三ヵ月くらいから改善し、半年ほどでお腹のシコリや圧痛も消えたので薬を止めました。

 Bさんは不妊症と診断を受けましたが、これといって自覚症状がありません。診察してみるとお腹全体が堅いだけで他に悪いところもありません。薬を合わせて4ヶ月くらいはまったく変化がありませんでしたが、5ヶ月目はお腹が少し柔らかくなっているような気がしました。半年後にははっきりと柔らかくなっていたので、楽しみですね、といっておくと、翌月にはすでに先月に妊娠していたとお聞きました。4ヶ月も何の変化もないのに、よく服薬が続いたものと感心します。

 Cさんも婦人病です。初診時にはお腹のどこを軽く押えても痛がり、皮膚も枯れて黒っぽくなっていました。子宮も萎縮して30歳後半でしたがもうすでに更年期障害と診断されていました。またこの方は妊娠したいともいっていましたが、お医者さんからは絶対無理といわれていたのであきらめていました。漢方薬を服んでいると風邪もひかず皮膚にも潤いがでてきて白くなってきました。調子がいいので2年ほど続けていると妊娠したというのです。これには本人も、いつも診てもらっているお医者さんも、私も皆がびっくりしました。漢方を長くやっていると不思議なこともあるものです。

  以上は皆婦人科疾患ですが、漢方から診るとすべて骨盤内の滞りです。これを解消しないことには治りません。例えば卵巣膿腫を手術で除去したとしても、骨盤内の渋滞を治さないと再発することも非常に多いのです。

その他の疾患でも、局所の治療だけでなく、全体の異常として考え、治療することが重要です。喘息の患者さんは上腹部が張っていることが多いです。たとえ咳嗽がなくなっても上腹部が柔らかくならないと再発します。神経症の患者さんが口ではよくなったといっても肩背の凝りや圧痛がなくならないと完治ではありません。胃腸の具合の悪い人で、自覚症状がなくなっても、背中に凝りがあったり、舌に苔がついていますとまた悪くなります。

 鍼灸治療のことでも同じです。椎間板ヘルニアの患者をよく診ます。手術が必要といわれる人は1割くらいですが、そういう人ばかりが治療に来ます。悪い局所の治療はせずに、その周りの凝っている筋肉を緩めてやるとよくなり再発もしません。手術をしてよくなってもまた再発する人がいますが、やはり全体の治療をするとよくなります。